これからの都庁の給与制度
-平成26年 人事委員会勧告の分析

東京都の「平成26年 職員の給与に関する報告と勧告」(いわゆる人事委員会勧告)が行われ、これからの給与制度の指針が示されました。

内容を端的に表すと、能力、業績を重視した仕組みへとさらに改正を進めています。

勧告のポイントは以下のとおりですが、これから都庁に入る方にとってどのような意義を持つのか、後段に解説を加えました。

給料月額は15年ぶり、特別給は7年ぶりに引上げ
・公民較差解消のため、給料月額を引上げ
・特別給(ボーナス)は0.25月(3.95月→4.20月)引上げ、勤勉手当に配分

国の総合的見直しへの対応
・地域手当の引上げ(18%→20%)と給料月額の引下げをあわせて実施
・給料月額の引下げは、都の問題意識に基づきメリハリを付けて実施
 ①地域手当の引上げに伴い、給料月額を平均1.7%引下げ
 ②1級及び2級は昇給カーブ是正等のため一部強めに引下げ(最大3.4%)

新たな監督職の職務の級(課長代理級職)の設置
現在の係長級職と課長補佐級職を廃止し、課長代理級職を設置
・今回の見直しを契機に、専門性を機軸に据えた複線型人事制度の具体化を検討

特別給(ボーナス)の引上げに関して
引上げ分(0.25か月分)を勤勉手当に配分とあります。勤勉手当は、一般職員(課長級未満)の場合、ボーナスのうちの約3分の1を構成し、勤務成績に応じて支給額の増減があります。

都庁でも、国家公務員と同様、勤勉手当の額が勤務成績に応じて増減しますので、ボーナス引上げ分が全員に等しく配分されるわけではありません。

成績優秀で今回の引上げ分以上にボーナスが増える職員もいれば、成績によっては、引上げ分を享受できない職員もいます。

勤務成績によってボーナスが増減する制度は、頑張りよりも結果のほうが問われる管理職を皮切りに導入されましたが、次いで監督職(課長補佐・係長級)へと拡大され、現在では、全ての職層に適用されています。

入都1年目から、もらえるボーナスの金額が同期の間でも異なるということです。

地域手当の引上げに伴う給料月額の引下げ
地域手当込みの実質的な給与額の水準を調整するために、地域手当を引き上げた分、給与計算の基礎となる給料月額の引き下げが行われます。

1級及び2級は昇給カーブ是正等のため一部強めに引下げ(最大3.4%)とあります。
これは、40代後半や50代で主事・主任の役職に留まっている職員(係長級未満)の給料を下げるということです。

3級(係長級)以上の職員に関しては特段の減額を言及されていないことから、ベテランと呼ばれる年齢層になれば、係長以上の職責を果たせるよう努めてほしいという当局のメッセージでしょう。

逆に言えば、主事・主任で留まっていると早い段階で給料が頭打ちになる制度へと変えることで、係長級以上になりたいと考える職員が増えるよう、インセンティブを設けているということです。

都庁に限りませんが、職員の生活保障のための給与という考え方から、仕事で果たした役割への報酬(職務給)の考え方へ移行が進んでいます。

この観点から、下位役職のベテラン層の給与減額は、これからも徐々に進行すると考えられます。
(一方で、若手の主任・係長等の給料は徐々に切り上がっていくはずです)

都庁の職務給制度の最終的な形態は、既に部長級の給与制度に表れています。務めているポストに応じた4段階の給料額しかありません(年齢、経歴は関係なし)。

部長級に関しては、職務に対する報酬の考え方を徹底する観点から、生活保障的な住宅手当、扶養手当が廃止された一方で、勤務成績に応じたボーナス額の幅も大きくなっています(最上位と最下位で約2.5倍の差)。

なお、この平成24年の部長級職の給料表改正にともない、課長の給料が部長を超えないように制度設計されています。つまり、ベテラン課長のほうが、若手部長よりも給料が高いという現象はなくなりました。

給料表の5級(課長級)の最高額は、6級(部長級)の最低額よりも数万円低く抑えられています。(平成26年11月現在で適用されている給料表)

将来は、こうした制度が課長級、課長補佐・係長級(新・課長代理級)等へと徐々に広がると想定されます。

そうすると、勤続年数に関わらず、課長代理級の給料は、課長級の給料より低く抑えられ、主任の給料は、課長代理級の給料より低く抑えられることになります。

例えば、ベテラン主任の給料は、若手の課長代理より低い額に設定されますから、主任に留まる限り、(例え勤続何十年だったとしても)年収600万円を上回ることはないといった状況になります。

さらに言うと、退職金は退職時の給料額が、年金は在職中の平均年収が、概ね計算のベースとなります。役職の違い、その結果としての給料の違いは、これまで以上に、退職金、年金の格差としても表れてきそうです。

これは公務員に限らず、民間企業を含めた傾向です。これから就職される方は、こうした傾向を前提に中長期的な視点でキャリアを選択すべきと考えます。どこに入るかだけでなく、入ってからどうするかも含めてです。

新たな監督職の職務の級(課長代理級職)の設置について
いわゆる出世の階段が、
旧:主事→主任→係長→課長補佐→課長
新:主事→主任→課長代理→課長
となります。

もともと、都庁の「係長」と「課長補佐」には明確な役職の違いがなく、上下関係もありませんでした。重要な係長ポストが「課長補佐級」として処遇されていたにすぎません。

もっとも、課長に昇進する前に、課長補佐を経験しなければいけないルールがありましたので、これまでは、係長級から課長への抜擢はできませんでした。

これからは「課長代理」の大きな枠が設けられ、その中から課長級へ抜擢しやすくなります。
ただし、若手の抜擢というよりも、実力のあるベテラン係長を一気に課長に昇進させ、管理職として組織運営や議会対応に腕を振るってもらう効果のほうが大きいでしょう。

若手にしても、最短のケースでは30歳で「課長代理」になるわけです。世間一般的には、「係長」と比べれば、やはり響きが違います。

職員の処遇のために何かと職層が増え(それに伴い事務手続も増える)傾向のある公務員の世界において、「係長」をなくしてしまうのは英断だと思います。

実力があるにも関わらずあえて係長級に留まる職員も大勢います。係長級を「課長代理」と位置付け、職務権限、意識の面で管理職側に近づけることで、管理職候補のプールを増やしたいという当局の思惑も伺えます。

名称を「課長補佐」ではなく、「課長代理」としたのは、係員と課長の間に立ちつつも、どちらかというと課長寄りのポジション、管理職を担う候補であるという意識づけを狙ったものではないでしょうか。実際に、従来の係長・課長補佐にはなかった権限も付与されるようです。

なお、勧告のポイントを示した箇所に「今回の見直しを契機に、専門性を機軸に据えた複線型人事制度の具体化を検討」とあります。

この点は採用段階でのキャリアの志向性とも関係しますので、改めて解説したいと思います。

その他の制度改正
上記の他に、具体的な仕組みについては今後の検討とされていますが、昇給制度の見直しについて勧告の中で以下のように言及されています。

 「国や多くの他団体においては、業績等に基づく昇給判定における最下位の区分は「昇給なし(0号給)」となっている。一方、都においては、一般職員の勤務成績に基づく昇給判定の区分は、4号給を標準とし、それより上の区分として「上位(5号給)」「最上位(6号給)」を設定しているが、標準未満の昇給号給数は「下位(3号給)」のみとなっている。」

 「こうした国・他団体の状況に加え、都においては、本年4月から、職務を十分に果たし得ない職員に対する降給を導入したことなどを勘案し、能力・業績の適切な給与への反映という観点から、職員の業績や能力の発揮状況を適切に反映できる昇給区分へと見直していくことが必要である。
また、この見直しを踏まえ、職員の能力・業績をよりきめ細かく給与に反映する観点から、今後の昇給制度のあり方について、検討していく必要がある。」

都における具体的な制度設計については触れられていませんが、これまでのように1年経過するごとに職務能力が向上していると見做し、ほぼ機械的に4号給以上昇給する(仮に下位評価を受けても、3号給は昇給できる)制度が見直されるようです。

これまでは、4号昇給か5号昇給となる職員が大多数を占めていました。将来的には、0号(昇給なし)から6号まで、毎年の昇給に差が付くようになるでしょう。

同じ年次に入都しても、10年も経過すれば、かなりの給与差となって表れるはずです。

さらに、毎年の昇給が大きい職員は、裏を返せば勤務態度や職務の成果に関して高評価を受けていることになるため、将来の役職も上がる可能性が高くなります。

一方で昇給幅の小さい(評価の低い)職員は、中長期的にも下位の役職に留まる可能性が高く、結果として給料の上限も抑えられることとなります。

なお、欧米で標準的な人事制度では、当該役職を可もなく不可もなくで果たしているという意味で、勤務成績が「普通」であれば、昇給はありません。物価上昇分が調整されるだけです。

これを「世界標準」と捉えるなら、「普通に勤務していれば毎年給料が上がる」という仕組みは日本でも徐々に削られていくでしょう。

これまでは都庁でも40歳前後で年収700万円といったモデルがあり、実際に多くの職員がこのモデル(平均像)の範囲に納まっていました。

これからは個人差が一層大きくなります。これから入都する方が40代となり、都庁の中核を担うようになる20年後には、昇進、給与の「平均像」は事実上なくなるでしょう。

例えば、1類Bに合格して入都した同期の中でも、40歳を迎えるころには、年収500万円に留まる職員もいれば、昇進による高い基本給に加えてボーナスの追加支給で年収1200万円をもらう職員もいるという世界です。

こうなると、都庁に入ればこれくらいの収入、生活水準は確保できるということはもはや言えません。

都庁で熱意を持ってやりたい仕事があるか、自分の望む所得水準に応じた職責を引き受ける意志があるか見極めが必要となります。

公務員なら大丈夫だと何となく就職し、若手のうちにのんびりしてしまうと、中長期的には期待していたほどの待遇は得られないかもしれません。

一方で、難しい仕事にも自ら志願してチャレンジする若手には、従来以上の収入と役職が与えられる機会が増えます。


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