択一試験の変更から読み取る、
採用したい人物

採用試験の出題内容には、人事当局がどのような人材を採りたいかが表れます。

また、そうした方向に研鑽を積んでほしいという当局から受験生へのメッセージでもあります。

平成27年度択一試験の変更にあたり、都人事当局は、
「民間の採用も活発化し、激しい人材獲得競争が見込まれる中、引き続き有為な人材を確保するために、平成27年度の採用試験から、技術区分の教養試験の出題数などを見直す」
と述べています。

端的に言えば、都の採りたい人材を確保するための見直しであるということです。

採用試験全体が変更されたわけではありませんが、今回の変更の方向性を分析することで、技術区分以外の方にとっても、都がぜひ採りたいと考えている人材像を把握するのに役立つでしょう。

以下に当局が発表した変更事項を紹介しながら、コメントを加えたいと思います。

技術区分の見直し
(1)知能分野の出題数の増加

都人事当局は、
「論理的思考力の検証をより重視するため、判断推理や数的処理など知能分野の出題数を増加し、社会事情や人文科学など知識分野の出題数を減少します。」としています。

知識よりも思考力を重視するという近年の傾向を、さらに推し進めるものです。

仕事に就いてからも一定の知識は必要ですが、それのためには学生時代の学問、知識を土台として、職務で必要とされるものを新たに身に付ける必要があります。

学生時代に身に付けた知識で、仕事でもそのまま勝負できるわけではありません。

したがって、受験生の段階での知識量は、ほどほどで良いと当局も考えているでしょう。

言い換えると、知識面があまりに不足しているのは困るが、一定水準をクリアしてくれればよい。知識があればあるほど高く評価するわけでなく、それよりも思考力を重視するということです。

就職後に新たに一定の知識を身に付ける意欲、能力(自分なりの勉強方法なども含む)を前提として、思考力のある人材を優先的に採用したいという意志が読み取れます。

また、知識分野についても、何が技術系職員の強みかという観点から、自然科学からの出題はそのままとし、社会事情などからの出題を減少させています。

理系人材にとっては、ある意味で教養と言える分野からの出題とすることで、特別な勉強がなくても基礎力があれば解けるようにし、一方で、公務員も受けてみようかという層を広げたい趣旨もあるでしょう。

(2)知識分野の出題構成を見直し、選択解答制を導入

1) 出題構成見直し:自然科学の出題数増加
都人事当局は、
「技術職に必要な基礎的教養をより適切に検証するため、理系学生にとって特別な試験対策が必要であった歴史、法律、社会事情などを中心としたこれまでの出題構成を、物理、化学などの出題数とバランスがとれたものへと見直します。」と述べています。

もっとも、「社会事情」に関しては出題数を減らされたものの(6題→3題)、必須回答としています。

技術職としての専門性を重視しながらも、公務員として、広く社会情勢に目を配る姿勢は持っておいてほしいという意図の表れです。

技術職の立場から政策の企画や実施に携わることが求められているのですから当然です。

択一試験の戦術としては「社会事情」の問題を捨てる(特段の準備はしない)方もいるかもしれませんが、公務員に求められる視点として、論文や面接で試されることになるので注意が必要です。
(当局も、そうした資質がいらないとは述べていません)

受験の間口は広げられていますが、行政を担う公務員の採用試験であることは変わりませんから、自分の専門のこと以外には関心がないというタイプの人材では、(研究職などを除き)最終合格までは難しいでしょう。

2) 選択解答制の導入
技術職区分に関して都人事当局は、
「受験生がこれまで学んできたことを中心に解答できるよう、社会事情を除く各分野(人文科学・社会科学・自然科学)について、選択解答制を導入します。(14問中10問解答)」としています。

自然科学(物理、化学など)だけで8問選択が可能となることから、事実上、人文科学・社会科学については、捨て問とする戦術もありえる出題構成となっています。

自然科学以外で2問選択するとして、しっかり準備しても本番で正解できるとも限りませんし、適当にマークしても当たる可能性もあります。

当局としては事実上、捨て問となることも黙認する姿勢でしょうが、一方で、公務員としての教養を試す試験という体裁を考えれば、全く出題しないわけにもいかないという立場でしょう。

入都後は、技術職の立場で政策の立案・実施に携わることになりますから、技術のことしか知らない、関心がないというのでは困ります。

あくまでも理系受験生の負担を軽減するための措置であって、公務員として人文科学・社会科学に関する素養や関心が全くいらないという趣旨ではありません。

この点は先述のとおり、論文・面接の中で検証されると認識しておいてください。

1A及び1Bの全試験区分を対象とした見直し 
(1)択一試験の試験時間の見直し

行政職なども含め、全ての区分で、択一の試験時間が長くなります。技術職に関しては、知能分野が増えるため回答に要する時間が必要ということです。

出題数に変更のないそれ以外の区分についても時間が延長されていますが、択一の点数が最終的な合否に影響するようになったことから、時間切れのために回答を適当に選んで運しだいになるのを減らす意図と考えられます。

自ら考える力を持った人材をできるだけ拾い上げたいという意向です。

(2)教養試験の成績を合否に反映 

都人事当局は、「今回の見直しの効果を最大限高めるため、合格者の決定は、教養試験の成績を含めた総合成績により行う」としています。

技術系については知能分野の問題数を増やしていること、他の区分でも時間を延長して知能問題に取り組みやすくしていることから、知能系を最終的な人材評価に取り入れる趣旨と考えられます。

近年、知識分野より知能分野の出題数を増やしてきた傾向があることから、知識よりも考える力を重視していることが読み取れます。

もっとも、昨年度までは択一を足切りにしか使っていないこと、行政職区分などでは問題構成が変わっていないことから、最終合否の決定にあたっての専門記述・論文・面接との傾斜配分については、それほど高くないと考えられます。

ただし、択一の知能分野での得点を、考える力を担保するために利用する趣旨であれば、無視できない一定の傾斜配分が行われるでしょう。

というのは、専門記述は知識そのものですし、論文、面接も、覚えてきたパターン回答を再現している受験生が多い(知識、記憶に頼っている)と当局が感じているのであれば、「考える力」への配点を増やしたいと考えるはずです。(少なくとも、「思考力」を備えた人材が、「知識重視」の人材より不利にならないように扱う)

受験生の間での論文・面接を終えた後の感想が、準備していた(知っていた)論点や質問だったか否かが中心になっているようなら、知識中心の発想になっているということです。

新たな課題に対して政策を考える、有効な実施策を考えるというのもそうですが、日々の実務でも知らないこと、経験がないことに(本人が望まなくても)頻繁に出くわします。

「考える力」を磨いておくことは、職員になった後のことをしっかり考えているという当事者意識の表れでもあります。

職員の身分と給料を得るために都庁に入るのか、仕事をするために都庁に入るのか、本心ではどちらに主眼が置かれているかです。

採用試験案内にも「東京は、時代変化の影響が最も早く、かつ、集中的に現れる現場」とあります。入都後は、過去の知識をそのまま適用できない場面、自分なりに考えなければいけない場面に遭遇することが想定されますが、職員の候補者として、こうした事態にも備えているでしょうか。

択一試験に話を戻しますが、従来は足切りのみですから、例えば8割取れる実力があるなら、それ以上は上を目指さなくてよいということが以前なら言えました。

これからは得点が高いほど最終合格に有利になります。(時間を割ける範囲で)できるだけ上を目指したほうがよいということです。特にボーダーライン付近では、択一の点数次第で最終合否が変わってくるでしょう。

復習になりますが、当局が求める人材像は、知識よりも思考力を重視。

もともと自分で考えるのが得意だというタイプはそれで良いのですが、苦手だという場合であっても、思考力や論理力向上のために、コツコツ努力を積み重ねられるタイプを優遇したと言えるでしょう。

考えるのは苦手だから知識面を一層頑張るという発想は、当局の意図に反するため危険です。

何にどう着目するのか、どういう手順で課題を抽出し、解決策を導くかなど、思考力は、目の付け所、フレームワークの習得で改善が可能です。

いわゆるIQテストではありませんし、中には難問もあるでしょうが、満点を取る必要はありません。

近年、都の採用試験では択一の知識分野を減らし、論文を事例式の出題とするなど、知識に関しては一定水準をクリアしてくれればいい、とにかく自分なりに考えて、相手に分かりやすく伝えられる力を持った人材を採りたい、という姿勢が伝わってきます。

都庁の採用試験、元を遡れば、組織が求める人材像が変わってきたのは、外部から登用された人材の活躍も影響しているでしょう。

現在は少し制度が変わりましたが、数年前まで、民間経験者を主任(係長)として採用する中途採用制度がありました。今は資産運用、ITといったスペシャリスト型の経験者採用ですが、当時はゼネラリスト採用です。

その中から管理職試験に合格して、将来を有望視される幹部候補になっている職員も相当数います。

都政に関する実務知識ほぼゼロの状態で30歳前後で入ってきて、それぞれの職場で活躍し、昇任試験にも高い割合で合格している(地方自治法など公務員独特の法律は入ってから勉強し、既存職員に追い付いたということです)のを見て、やはり活躍するには意欲、能力のほうが大事だと人事当局も見ているのでしょう。

意欲があって、基礎的な資質が備わっていれば、職務に必要な知識は入ってからでも(本人が本当に必要と考えるなら、勤務後や土日に勉強してでも)身に付けられると、実例から、当局も分かっています。

もちろん、新卒で都庁に入って活躍しているプロパー人材も大勢います。

こうしたプロパー人材に加えて、都政の実務ゼロで入ってきても活躍している民間経験者人材、それぞれの共通項を分析し、どんな人材を採りたいかを考えて、採用試験が構成されています。

なお、資質、能力については、生まれついての才能を測っているわけではありません。自分の強みを伸ばしたり、弱みを克服するために、普段からどのようなことに取り組んでいるか、就職後もそれを続ける意欲があるかも含めた評価です。

地方公務員法に、

17条 人事委員会を置く地方公共団体においては、職員の採用及び昇任は、競争試験によるものとする。

20条 競争試験は、職務遂行の能力を有するかどうかを正確に判定することをもつてその目的とする。

とあるように、公務員試験は、学業優秀な学生、頭の良い学生を選抜しているのではなく、あくまでも職務遂行能力(の基礎)を検証しているということを忘れないようにしましょう。

そして、職務遂行能力として何が重視されるかは、中央省庁の中でも異なりますし、自治体の中でも様々です。

学者肌のとにかく頭が切れるタイプがいいという組織もあれば、理屈よりも行動力があって、住民と接するのが好きだというタイプがいいという組織もあります。


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