選抜は入都1年目から始まっている

あるビジネス誌で、総合職として大手企業へ入社後、最初の数か月間の研修で“幹部候補”と“その他大勢の兵隊”に選別される過程が紹介されていました。

都庁では、そこまで短期間でシビアに選別されるわけではありませんが、決して「横並び」ではありません。

都庁ではじっくり1、2年かけて最初の選別が行われます。具体的には、意欲、能力ともに本庁勤務がしっかり務まりそうな人材か、第一段階の選別です。

この選別は、「〇〇さんは優秀だから本庁異動は間違いないだろう」とか、「△△部から引っ張られるかもしれないね」、といった職場での評価、また諸々の人を介して本庁の人事担当まで伝わってくる評判によって、徐々にコンセンサスが形成されるものです。

都庁で最初に行われる選抜は、名簿やリスト、点数順ではっきり区別されるような選抜ではないため、はっきり峻別される形ではありませんが、しかるべき時期に本庁部署に抜擢されそうかどうか、近い将来の主任試験の受かりやすさ(持ち点)といった側面で、横並びとはなりません。

さらに、将来全庁的な活躍ができるか、都政の中枢を担う幹部候補か、少しずつ分かれてくるのは、もう一つ先の人事異動でどういった職務に携わるかによります。

幹部候補といっても、実際には管理職試験(筆記・面接・勤務評定等)に合格しないと幹部(課長以上)にはなれません。

「彼は優秀だし意欲もあるから、いずれは管理職試験に受かるだろう」と周りに評価されるようになれば、それが一般的な意味での幹部候補といえるでしょう。

最初の選別は大まかな仕分けですが、このあたりから、概ね政策や制度を扱うキャリアパス、現場で業務を執行するキャリアパスが分かれ始めます。

単純に言い換えれば、前者は本庁勤務が長くなるタイプ、後者は出先勤務が長くなるタイプのキャリアと言えます。

同じ職場の人も、本庁人事も、新人の働きぶりには注目しています。1、2年もすれば、彼は優秀だとか、向上心があるとか、あるいはそこまで熱心ではないみたいだとか、だいたい衆目の一致するその人材のイメージが固まってきます。

また、こうした人物像もさることながら、明確に数字が付けられる毎年の勤務評定(上司からの評価)は大切です。「自分は本庁タイプの人材だから、出先で結果を出せないのはしょうがない」と勝手に振る舞うのは通りません。(内心は別として)

「現場で結果を出せなくても、採用試験の順位が高いから救済してくれるのでは」と甘い幻想を抱くのは危険です。

現場で与えられた仕事で十分な結果を示しつつ、政策・制度立案などでも力を発揮できそうな人材だと見込まれれば、遠からず次のステージの仕事が与えられるはずです。


なお、都庁で主任に昇任できるのは最短で6年目(Ⅰ類B)とされています。それまでは同期は「横並び」のはずと思っている方もいるかもしれません。

確かに職位に差が付かないという意味では「横並び」ですが、毎年の勤務評定、それに伴う給料、ボーナスの額の違いは、入都2年目から現れてきます。

また、主任試験の合否判定には、それまでの勤務評定も組み込まれています。主任試験に受かりやすいか否かという点でも、毎年、差がついていきます。これは、何となく下駄を履かせてくれるという意味ではなく、正式な制度上のものです。

そして、同じ年に主任試験に合格した職員の中でも、どのような部署で主任としての活躍が期待されているかは、主任試験の前の段階である程度分かれています。主任試験合格後に改めて横並びでスタートするわけではなく、主任試験の点数が高いだけで幹部候補として扱われたり枢要部署に抜擢されるわけでもありません。


都庁の仕事で何を目指すかは人それぞれですが、出世したい、官房系局の中枢で仕事をしたいということであれば、本庁タイプが有利なのは事実でしょう。

だだし、最初の時点で選ばれたら将来が保証されるとか、逆に、選ばれなければもうダメだとか、そういったことはありません。最初に訪れるキャリアの分かれ道ではありますが、また交差することはあります。

また、この選別いかんによって、最初の昇任試験である主任試験に合格できないということはありません。

例えば、出先で5年間勤めて、一発で主任試験に合格する職員はいます。ただこの場合、主任になってから歩むキャリアパスは、政策立案部門よりも、出先や、本庁の出先統括部署で業務執行の中核を担う役割を期待されるケースが多いと思います。

なお、主任試験に合格していないと、その先の管理職試験の受験資格が得られないという点では、幹部候補選抜の役割も果たしていますが、主たる目的ではありません。実際には、近い将来に課長代理に昇任する人材選抜の意味合いが濃いでしょう。


主任試験より前の、最初の選別の結果が目に見える形で現れる時期は、局によって異なります。

最初に出先配属を行う局の場合、2年目(出先で1年経過後)から随時本庁に呼ぶ局もあれば、どんなに優秀な職員でも最初の2年間は必ず出先を経験させる局もあります。

ただ、本庁の空きポスト状況は、局内の部門によってその時どきで異なります。その職員が優秀なのは把握しているけれども、今回は本庁に異動させる枠がない、というケースも起こります。

このため、3年目で本庁に異動した人のほうが、4年目で本庁異動となった人より評価が高いとは必ずしも言えません。

最初に本庁配属を行う局の場合、2年目以降に本庁内の異動で、組織の動きを俯瞰できる総務部門へ優秀な職員を異動させるケースがあります。なお、先にも述べましたが、この対象にならなかったからもうダメだ、ということはありません。

都歴1年では都政に関する諸々の蓄積がまだ浅いため、2年目で政策立案部署へ異動するケースはまれでしょう。(人手が不足している多忙な部署であれば、入都2年目の職員を見習いとして異動させ、3年目から政策立案に関与させるというケースはありえます)


入都2年目、3年目あたりから、同期の間でも、異動希望がかなった、かなわなかったという違いが出てきます。公務員といえども競争社会にいることを実感させられるかもしれません。

ただし、都庁ではその時点で勝負ありということは決してありません。現在の職務を十分に果たしながら、異動希望をかなえる布石(異動先で必要となる技能を磨いておくなど)を打つことが大切です。

ところで、筆者も振出しの配属先は希望外(おそらく大多数の受験生が敬遠している職務)でしたが、その後の異動は全て希望どおりです。

これにはやはりコツがあり、職員の中でも、コツを掴んで積極的に動くタイプと、異動希望は出すものの結局は人事当局の判断次第になるタイプに二分されているように感じます。

入都後どのような職務経験を何年積んできたかは、年次が上がるにつれて、次の異動先の決定に色濃く影響します。

例えば、本庁各部の予算担当としての経験があれば、局の総務部経理課予算係(局全体の予算を統括)への異動希望が通りやすくなります。さらに、各局の経理課予算係の経験があれば、財務局主計部から声がかかることもある、という具合です。
人事や政策の企画立案など、他の分野でも同様です。

採用時の配属先については、出先になるか本庁になるか、本人の努力や実力で希望を通すことはできません。

逆に、出先配属だから評価されていないと考える必要も全くありません。当局の新人育成方針と各職場の人材ニーズとの都合上、そうなっているだけです。

最初の配属先で結果を残し、概ね3年目を迎える時期までに、より困難な仕事や新しいチャレンジに耐えうる人材という評価を得ているかどうかが、その後のキャリアの道筋を占ううえで非常に大切です。

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